1998.08.06
今でも脳内バブリー
「パラッツォ」ロイヤルパークホテル
楽-3

訳あって、この店を訪れるのは実に1年3ヶ月ぶりだった。以前は毎週のように、いやそれ以上に使っていたんだけれど。オープン当時、ホテルのフレンチレストランと言えば、オヤジ好みするインテリアに、ありきたりのメニュと言うのが定番だったが、この店は違っていた。パリの2スターレストランから優秀な料理人を連れてきて、非常にエスプリのある料理を提供していた。

内装も当時としてはとても斬新で、さすが外国人デザイナーの手がけるインテリアは一味違うなぁと思ったものだ。サービスにしても、若いスタッフながらフレンチレストランらしい正統派のサービスの中に、親しみやウィットな感じを取り入れ、20代になったばかりのぼくの感覚にはぴったりだった。

しかし、時間を経て熟すのでなく後退をしてしまっている。まず、優秀な従業員からいなくなる。オープン当初は不慣れでも士気は高く、ベテランを見習おうと若い従業員も頑張るが、手本となり憧れだった先輩が抜けて、どちらかと言えば目の上のたんこぶのような先輩や、現場のことを理解もしないで数字ばかり突き付けてくる上司にうんざりするうちに、彼らもまた同じように茹で上がってしまうのだと言うことが、さながら、ファーブルが昆虫を眺めているような心境でこのレストランを観察していてよく解った。

まぁ、敢えてフォローするならホテルの責任ばかりではない。このホテルは兜町にも近く、かつては贅沢三昧を得意とする客層に恵まれていた。しかし、彼らの懐が淋しくなったり、逮捕されてしまったりで、ホテルにも閑古鳥が鳴くようになった。時代が時代だから苦戦するのも仕方ないかもしれない。

しかし、こういった時代の流れは、決して不測の事態でも寝耳に水でもなく、季節が訪れるのと同じで気配と言うものがあったはずだ。それを敏感に捉えられなかった多くのホテルやレストランが今まさに苦戦している。法人や接待の需要に胡座を掻いて、当時にだっていたはずの個人客を蔑ろにした代償がまわってきた。そして、いまだに対法人感覚が抜けきれていない。

例えば、このホテルでも利用額に応じて、ホテル内で使えるギフトカードをプレゼントしてくれるプログラムがあるが、100万円使う毎に1万円分のギフトカードをくれることになっている。それも半年以内でないと無効になる仕組み。この額は個人客にとって現実的とはいいがたい。今後、個人消費に着目、つまりお客様ひとりひとりを本気で大切にしていかないと、今のゼネコンや銀行のような状態に陥ってしまうだろう。

この日の食事は、かつてのこの店の雰囲気と比べてしまうと腹が立つものだったが、都内のレストランの偏差値からすれば優等生だ。ちょうど、夏の素材を使って仕立てたコースがあったのでトライしてみた。どの品もシェフの創意工夫が活かされていて、懐石料理のように目を楽しませてくれた。この季節のコース以外に、グランドメニュから好みの品でコースを仕立てる形式を採用していて、1万円で豊富なメニュからチョイスできる。

その他、ワインの品揃えが著しく淋しくなったことは残念。それから、デザートのスフレはよくまぁ恥ずかしげもなくテーブルに運べたものだと言えるほどお粗末な出来。従業員のテーブルに対する注意が散漫なのもよろしくない。しかし、当時この店を切り盛りしていた高橋マネジャーが他店から顔を出してくれ、しばし話しに興じながら、昔を懐かしむことができたので「楽」とした。

Y.K.