1998.03.20
グランメゾン
「コートドール」三田
喜-5

慶應義塾大学の裏手のあたりは、閑静な高級住宅街と昔ながらの商店街が同居して、いかにも古くから栄えた東京という雰囲気が漂っているが、大通りからやや引っ込んだところのマンションの1階に、日本で指折りのフランス料理店がある。大きな看板があるわけでもなく、人通りが多いわけでもなく、お世辞にも商売に適した環境とはいえない。

ところが、いつもお客でいっぱいなのだ。品を感じさせるご婦人や、おそらくは開店当時からの付き合いがあろうと思われる紳士ばかりが集まっていて、流行だけを追いかけるような冷やかしのお客は見当たらない。そうした客層の安定が、素晴らしい料理にも反映しているのだろう。

お昼のコースは名物赤ピーマンのムースに始まり、鱈の白子のムニエル、幼鴨のロースト、アールグレイのシャーベットに続き、キルッシュ風味のココナッツブラマンジェ、コーヒーとマカロンで締めくくられる。これだけ味わって4,500円。10年前も4,000円だったことを考えるとほとんど変わっていないわけだ。料理はどれも素晴らしく、赤ピーマンのムースの柔らかな舌触りとトマトのピュレのフレッシュさや、アツアツの白子のムニエルにかかったレンズ豆とローズマリーのビネガーソースなど、一度味わったら忘れられない。

サービスもまた洗練されていて、ソフトな感じのメートルはもとより、若いギャルソンにも親しみと笑顔があり、快適に食事が楽しめる。本当においしいものを味わいたい人だけが集まるこの店には、多少不便なこの環境がかえって味方しているのかもしれない。久しぶりに文句無しの料理に出会えて、文句無しの「喜」。

Y.K.