1996.10.16
秋の薫りたつフランス料理をテラスで
「テラスオンザベイ」ホテル日航東京
喜-4素材の「鮮度」と、皿から立ちのぼる「馨り」をなによりも大切にしているという、宮崎シェフの腕が鳴る季節がやってきた。「秋の香りたつフランス料理」と題したフェアは、昼コース10,000円、夜コース15,000円という価格設定でフランス料理ファンの来店を狙っている。今回は昼コースを利用してみたが、それにはもうひとつの目当てがあったからだ。この店のウリになるはずだった、テラス席での食事を楽しみたかったからだ。
マネージャーが言うには、海からの風が強く、せっかくのテラスだが一度も使った試しがないとのことで、いわばぼくらが実験台になったわけだが、こんな実験台ならいつでも大歓迎だ。このテラス、実に厄介で、テラスへの動線は店内中央の扉を利用するしかないのだが、その扉を開ける度に店内に風が舞い込み、テーブルクロスが捲し上げられたり、紙類が舞ってしまったりと、フレンチレストランならではの落ち着いた空気が、一瞬でかき乱されてしまうのだ。
というわけで、店内にゲストが多い時はまずテラスの使用は不可能だ。この日はそれなりに席が埋まっていたので、残念ながら初めからテラスで食事をすることはできなかったが、なるべく店の半分にゲストをアサインするように配慮してくれていたので、途中からは店内半分がノーゲストになり、その部分にある扉を利用してテラスへのサービスが可能になった。
ちょうどデザートからテラスに移動して、秋の穏やかな空の下、対岸の東京スカイラインを眺めながら、ゆったりとした時間を過ごすことができた。テラスにも座り心地のよいクッションの椅子が用意され、テーブルにはクロスが掛けられ、店内のテーブルさながらにセッティングされている。植え込みにはハーブが植えられ、周囲は不思議なくらい静まり返っているので、都心にいることはすっかり忘れてしまいそうだった。こんな素晴らしい空間が活用できないのはとてももったいないことだ。
料理は実に素晴らしく薫り高かった。帆立貝のパート包みはジューシーな帆立貝をパリッとしたパートで包ぬであり、ナイフを入れた瞬間帆立の甘い香りとセップの香ばしさが立ちのぼる。温度も素晴らしい。子鳩はジビエらしいエッセンスがぎゅっと詰まった感じがハーブや岩塩によってより引き締められ見事だったが、付け合わせのポテトのガレットはスタンバイが早すぎたのか、熱を失っていたのが残念。
デザートのリンゴのタルトは圧巻だった。ミルフィーユ状の軽やかなパイの上に、リンゴならではのサクッとした食感が残る程よい火の通り加減のリンゴが並ぶ。シンプルゆえに難しい料理だ。付け合わせに出たバニラのアイスクリームに使用したバニラビーンズはタヒチ産と見え、素晴らしい芳香で、口当たりも滑らかだった。ワインはマネージャーの勧めでバタールモンラッシェOlivier Leflaive '93を。
料理とテラス席のことだけ考えれば間違いなく「喜-5」だが、足をひっぱたのがサービス陣だった。よい動きの従業員もいるのだが、半数はダラダラと気抜けしており、背筋も曲がっている。ベテランと新人とのスキルと心構えの差があまりにもあり過ぎる。また、今回の予約を受けたのは、前回とは別の担当者だったが、やはりよくない対応だった。改善して欲しい。
小さなオードブル
帆立貝のギリシャ風パート包み セップ茸の香り
子鳩の網焼き じゃがいものガレット トリュフの香り
季節のサラダ トリュフの香り
チーズ各種
リンゴの温かいタルト カルバドスの香りとバニラアイスクリーム
コーヒー
小菓子
Y.K.