1996.06.16
威光を放つホテル
ホテルオークラ神戸 Deluxe Corner Room
喜-3

新神戸の駅からタクシーに乗り、「オークラまでお願いします」と告げる。新幹線を降り立って数分後の、この瞬間が好きだ。多くの運転手は気分よさそうに車を出し、道中「どちらからお越しですか」とか、「お仕事は何ですか」といった話題を持ちかけてくる。「オークラはいいホテルです。」と自慢げに付け加える運転手も少なくない。この様子からも神戸では別格のホテルであることがうかがえる。

また、仕事先で「どちらにご滞在ですか」と尋ねられた時も、「オークラです」と答えると良い印象を与えられる。このように、ホテルオークラを予約しておけば、チェックイン前からすでに、意外なところで格別のサービスが待ち構えている。

車が正面玄関へのスロープを上がると、背筋をピンと伸ばして立つドアマンの姿が見え、車に気付けば直ぐに誘導をし、扉を開けてくれる。荷物をベルマンに任せ、フロントに向かいチェックインをするが、その時も、ベルマンは荷物を持ったまま背後にキリっとして立ったままだ。荷物は別ルートで部屋に上げてくれるホテルもあるが、こうして部屋までの案内を兼ねながら一緒に運んでくれると安心だ。

今回は1名利用で予約してあり、料金は1泊14,500円朝食付きと聞いていたので、狭い部屋だろうと思っていたが、高層階のコーナーに位置するダブルルームにアップグレードしてくれた。狭い部屋といっても28平米あり、かなりゆったりしているので、十分だと思っていたが、配慮はありがたかった。

部屋に入ると少し肌寒く感じた。案内をしてくれたベルマンは、その様子を感じ取ってか、「お部屋の温度が低すぎましたか?」と尋ね、温度設定を上げながら「次回からはもう少し高い温度に調整しておくようにいたします」といい添えて、他に用がないか尋ねた後に退室していった。こうしたちょっとしたやり取りや、ささやかな気遣いから、良い印象が膨らんでいくものだ

このコーナールームは窓が小さいのが難点だが、個性的な配置になっており、ベッドには天蓋状の装飾がある。バスルームは大理石張りでダブルベイシン。開業当時はビデが設置されていたが、シャワーブースに改装されている。シャワーの水圧は十分だが、ブースの扉がアルミサッシ製で、チープな感じ。後から設置したため換気がよくないこともあって、カビが発生している。とはいえ、ひとりで利用するには申し分ない設備で満足。

ちょうどメリケンパークを見下ろす景色で、夜はハーバーライトが美しかった。今回はほとんど寝るだけの滞在だったので、レストラン等も利用しなかったが、チェックアウト時には、昔と変わらず「いってらっしゃいませ」と送り出してくれた。かつてはリーディングホテルズオブザワールドに加盟していたが、震災の影響で脱退を余儀なくされた。しかし、神戸では、施設、サービス共に群を抜いており、今でもひときわ威光を放っている。

2001.03.27
5年ぶりのただいま
ホテルオークラ神戸 Deluxe Corner Room
楽-5

届けられたフルーツ

日中は岡山に仕事があって出かけたので、岡山に宿泊することを考えたが、どうしてもオークラ神戸に泊まりたかった。最近は5年近く利用する機会がなかったが、このホテルには開業以来実に様々な思い出がある。東京と神戸を頻繁に往復していた12年前、一度につき平均1週間、月に2度は通っていたので、実にその年の半分をオークラ神戸で過ごしたことになる。

関西初のオークラとして、従業員には覇気がみなぎり、客層にも恵まれて、自然とそこにはオトナの世界が作り上げられていた。日本のホテルでの日本人らしい風格や気品を感じさせるシーンがあちこちで見られ、背伸びをした東京の若造は好みのモードを諦めてトラディショナルな服装に身を包み、その空気になじもうと努力をしたものだった。

当時ラックレートでコンスタントな利用実績があったから、以前は入会審査が厳しいことで知られていた会員組織にもホテルからお声を掛けてもらったが、分不相応と辞退した記憶がある。その頃から比べれば利用頻度はぐっと減ってしまったが、神戸へ出向くときは可能なかぎりオークラを利用したいと思っているし、愛着は以前にも増したくらいだ。

港に面してそびえるこの35階建てのタワーにはぼくが青春を謳歌していた時代の思い出がぎっしり詰まっている。最上階のレストランで素直な気持ちを告白したこともあるし、シャワーを顔に当てながら涙をこらえたこともあった。そんなことをひとつひとつ思い出しながら、元町からメリケンパークまでの道のりを歩いたらあっという間にホテルのエントランスに到着した。

チェックインタイムの15時よりも随分早く着いたが、スムースにチェックインができ客室まで案内してもらった。エレベータを降りると、新しくなった絨毯に絞られた照明が効果的に当たり、とてもムードのある空間になっていた。ベルマンはぼくがこのホテルに慣れていることを感じ取ったのか、部屋の細かな説明は省き、礼儀正しく挨拶をして退室した。するとそこはもう完璧なプライベート空間だ。

コーナーに位置しているこの客室は、扉の下に新聞が入るスペースが空いているにも関わらず、エントランスと室内との間に角度と距離があるので、室外の音はほとんど気にならなず静かだ。客室の温度もちょうどよい。コーナーの窓は小さいが神戸の街並みと山々が迫る素晴らしい眺望が得られる。ベッドはハリウッドスタイルで113×200のベッドが2台ピッタリと寄せて置かれている。天井高は265センチで、蛍光灯の間接照明がオークラらしい。この間接照明を消して、スタンドだけの明りにしても十分に明るく雰囲気もいい。

ナイトランプのシェードは遮光性があって、光が室内に広がらないようになっているから、連れがいて先に休んでいる時などにはありがたいだろう。その他、大きなライティングデスク、ソファセットが置かれてもなお、スペースは十分にゆとりがある。ベッドの横から入るバスルームは6.3平米あって広く、壁面と床には大理石を使っている。天井も220センチと高めだ。ダブルのベイシンは、長くてゆったりしたバスタブとともに真っ白な陶器でできており、清掃も行き届いて清潔感抜群。

アメニティはオーソドックスだが、タオルはスリーサイズが豊富に用意され、ウォッシュクロスが別に用意されている。シャワーブースのサッシは相変わらずだが、見てくれからは想像できない痛いほどのシャワーの気持ちよさがチープさを忘れさせてくれる。トイレは洗浄機能付きで、発信可能な電話機はバスルームを含め3台設置されており便利だった。カーテンは電動で、時間帯で内容が変化する3チャンネルのBGMはバスルーム内でも楽しむことができる。

部屋のチェックをしていたら、電話がなった。東京のオークラで針が刺さった時に、最初から最後まで誠実に対応をしてくれた信頼の置ける人が、今は神戸に赴任している。懐かしい声にぼくも嬉しくなり、直接会ってお互いの近況を報告しあい、しばらく歓談した。そんな交流ができるもの実に楽しいものだ。岡山へ出発する前に、こんどはファクシミリを受信したと電話があり、その後すぐに部屋に届けられた。着信後5分以内であった。必ずしもこのタイミングでデリバリーするのは容易でないが、レスポンスが早いほど信望は厚くなる。

岡山へ出向き、神戸で食事をしてホテルに戻ったのは深夜2時だった。それでも、ロビーにはベルマンやフロント係がきちんと立っており、サービス体制が整っていることもさすがに感じた。そして、客室にはフルーツが。その蜜はぼくの心に深く染み込んだ。部屋の照明をすべて消し、窓際に立って神戸の夜景を眺めていると、空中に立っているような錯覚を感じさせてくれる。魔法の絨毯のようなホテルだ。

エントランス方向から室内を見渡す 真っ白なバスタブが気持ちいい

Y.K.