1995.07.31
越権行為
ハイアットリージェンシー福岡 Regency Club Deluxe Room
哀-3アジアの玄関、福岡に突如出現したスフィンクスは、マイケル・グレイヴス氏がデザインしたハイアットリージェンシー福岡である。円形の13階建てタワーと6階建てフォアコートを巧みに融合させ、巨大なモニュメントのような外観をしている。博多駅から徒歩で行ける距離にあり、合同庁舎や公園などに隣接しているが、夜になると静まり返る環境だ。
こぢんまりとしてホテルらしからぬ車寄せに降り立ち、エントランスを抜けると、42メートルの高さを誇るアトリウムが訪れるものを圧倒する。木肌、大理石、格子ガラス窓などとあいまった幻想的な照明が、巨大で斬新な空間を完成させている。エントランスを入って右手のフロントカウンターでチェックインを済ませ、ベルマンに客室まで案内される。今回予約していたのは、リージェンシークラブのデラックスルームだった。6階にリージェンシークラブ専用ラウンジが設けられているが、ラウンジとコンセルジュ機能のみで、チェックイン・アウトは1階のフロントで行った。
ホテルは13階建てだが、リージェンシークラブは低層階に割り当てられており、デラックスルームはちょうどフォアコートのコーナー部分に位置している。43平米の面積があるデラックスルームは、横長の長方形をしており、2面に窓を持つ明るい空間が特徴だ。ベッドのヘッド側にも窓があって、昼寝でもしたらさぞかし気分がいいだろう。窓からはちょうど街路樹を間近に見下ろすかたちで、若手の画家でも、弁護士でも、この部屋をアトリエやオフィスに使いたくなるだろうなと思わせるものがある。日中は蝉の声が嵐のようだった。
ベッドカバーはなく、真っ白な綿のデュベカバーがそのまま客室デザインの一部に溶け込んでいる。スタイリッシュな肱掛椅子とライティングデスク、アーモア、ミニバーと、設備はシンプルだが、デザイン性に優れ、アットホームな快適さがある。
バスルームは、同じカテゴリーでも客室によってレイアウトや設備に違いがあるが、今回利用した客室は、外光が入り、なおかつ洗い場を設置したスタイルのバスルームだった。通常ならバスタブ上部にある排水口がないので、お湯を目いっぱい張って、ザザーッと溢れさせて入る、日本式の入浴が可能だ。ところが、夏の福岡だけあって、水の出が極めて悪かった。シャワーにいたっては、カランからシャワーにノズルを切り替えても、水圧が低いためにスト〜ンとカランに戻ってしまうほどで、とても洗髪ができる状態ではなかった。
翌日になって、その事をコンセルジュに指摘すると、自分の権限では、この件に対応することはできないという、不可解な返答をして来た。では、問題が生じたときに対応できる人はだれなのかと尋ねると、今日はお休みで来ていないという。たとえ責任者が不在でも、何らかの問題が生じたときに対応でいるよう、残されたものにそれなりの権限が譲渡されているはずだ。ましてや、シャワーの不具合があるから部屋をチェンジして欲しいと言っているだけで、このホテルをそっくり購入したいという取り引きを申し出ている訳ではないのだ。
散々苦労してやっとルームチェンジをしてもらったところ、驚くほど勢い良くお湯が出る。なんだ、夏の福岡のせいじゃなかったんだ。こうした苦情を、越権行為に当たると退けることしかできないものを残して、休暇を取れる上司の気が知れない。滞在中にすべてのレストラン・バーを利用した。街場のレストランのような気軽な施設が多く、値段も手頃で遊び心一杯。ハイアットはこういうレストランをやらせると本当にうまい。
1995.08.02
再認識
博多東急ホテル Standard Room
哀-1タクシーでハイアットリージェンシーから東急ホテルに向かった。途中で急に強い雨が降ってきて、街行く人々も持ち物で頭を覆ったり、駆け足で建物の影に駆け込んだりしていた。乗ったタクシーの運転手が意地悪なヤツで、東急ホテルの車寄せが混雑していたため、そこに入るのを嫌がりホテルの手前なのにここで降りろと言う。荷物も多いし、雨が降っているから嫌だと反論しても、てこでも動こうとしない。一緒に乗っていた我がマネージャーが、仕方ないから降りて走ろうというので、ぶざまにもホテルまで駆け足をしてしまった。こんなタクシー運ちゃんはフクオカの恥だ。
今回、博多東急ホテルに「お引越し」をして来たのは、友人の披露宴に出席するためだった。スタンダードルームは、斬新で広々していたなハイアットのデラックスルームから来ると、さすがに見劣りはするが、眼下に川を望み、その向こうに中州の繁華街が広り、夜ともなればネオンが賑やかで、福岡に来ているという実感が強かった。客室は、明日からリノベーションに取りかかっても不思議でないほど、使い古されているが、意外に落ち着いた気分になれる。バスルームも当然ユニットなのだが、古めかしいタイプのベイシンや、浅いバスタブなど、かつてのスタンダードを再認識する上でも大変参考になった。福岡はこれから先、空前の開業ラッシュを迎える。そうした新規高級ホテルと、どう張り合っていくのかを思いやると心配になる。
Y.K.