1993.06.24
ムニュ・プレステージ
「ル・マエストロ ポールボキューズトーキョー」赤坂アークヒルズ
喜-4

予約の時間より30分も早く到着したのに、入口では「神田様ですね」と名乗るまでもなくにこやかに出迎えられた。この店にはそれほど通い詰めたわけでないのに、このような迎えられかたをするととてもうれしい気分になる。単に予約が少なかっただけかもしれないが、もし違っていたら大変なことになるわけだから、何かしらの確信があって名前を出したのだと思う。

席につくと、アペリティフを勧められたので、ボトルのシャンパンをと告げたところ、すぐさまリストを持ちながら、用意できるシャンパンの特色を説明してくれた。まるでカードマジックを見るような見事な運びだった。ディナーコースは13,000円、16,000円、20,000円の3種があり、その他にアラカルトがある。ヴーヴクリコのイエローラベルを選び、料理は20,000円のムニュ・プレステージにした。

シャンパンが注がれると、すぐにアミューズ(グリッシーニに生ハムを巻いたものとフォアグラの小さなタルト)が運ばれ、オードブルが運ばれるまでの期待いっぱいの時間を楽しむ。その後も終始一貫してタイミングをよく見計らったスマートなサービスが続き、快適な環境で食事を楽しむことができた。

料理内容は、つぶ貝のマリネ クミンの香り、フレッシュサーモンと自家製スモークサーモンのタルタル キャビアといくら添え、黒トリュフのコンソメパイ包み焼き フォアグラとポークロースト入り、エクルビスのムース 舌平目包み、カシスとボルドーワインのグラニテ、鴨のロースト 蜂蜜とスパイスのソース 花ズッキーニ添え、ナチュラルチーズのいろいろ、デザートワゴンの三重奏、小菓子、コーヒー、更にチェリーとバニラアイスクリームのかわいらしいお菓子がサービスされた。

ボキューズの名物料理で構成されたコースは、高級食材をふんだんに使った薫り高い料理ばかりだった。よい料理は香りと温度が常に素晴らしい。香りで食欲を刺激し、温度で神経を覚まさないと、全身で味わうことができないからだ。舌だけに美味しい料理はすぐに忘れてしまう。デザートは圧巻で、大きなワゴン3台にいろとりどりのケーキやフルーツがびっしりと並び、当然ながら選びたい放題だ。それをバランスよく、また美しく盛り付けてくれるので、女性は大喜びだ。

給仕たちは一見無愛想だが、単にクールに決めているだけのようで、話しはじめるととても陽気な人柄がうかがえる。地でいっても構わないと思うのは、ぼくだけだろうか。また、ソムリエとの会話はとても参考になった。押し付けがましくなく、理屈っぽくもなく、自然に興味がわいてくる話し方だった。アドバイスをもとに選んだレフォールドラトゥール'75もよく熟成して素晴らしかった。

Y.K